摂食嚥下の5期とは、なに?:コラム/ますち歯科診療室 MASUCHI DENTAL CLINIC
摂食嚥下の5期とは?
食物を認識し、口の中に運び、咀嚼することでそのものを味わい、飲み込みやすい形状に変えた後に喉へと送り込んでごっくんと飲み込みます。この動作を「摂食嚥下」と呼びます。
高齢者の方や病気によってその機能が低下したり、麻痺したりすると、うまく飲み込めなくなることで食が細くなっての低栄養や、喉つまり、窒息や、むせそして気管に誤って入ることでの誤嚥性肺炎を発症します。
その機能が落ちてきた時の対応、機能を向上、維持させること、その機能に合わせた食物の形状、量、環境に工夫することが必要です。
そして何よりも、機能が落ちる前の予備軍の状況で、機能を維持するための筋力などの訓練を日々の生活の中で理解して実践を習慣とすることを、歯科医療が地域住民へ啓発、活動していくことが望まれます。
また、高齢者に限らず、乳幼児からの上手な摂食嚥下機能の習得がなされていない場合は、しっかりとした顎骨の発達を妨げることにも大きく関与することを考えていかなければなりません。それは発育の妨げとともに、呼吸方法や姿勢にも関係していくと考えています。
ではこれより摂食嚥下・食物の旅路の5つのチャプタ―開演です!
1.先行期(認知期)
先行期では、食物を見て、硬さ・味・温度・におい・口へ運ぶ量や速さ・噛む力などを認識する。
先行期に問題が生じると
食物を食物と認識できず食動作が始まらない、疾病により嗅覚が障害されて食欲と結びつかない、自分の適切な食事のペースが解らずどんどん口に詰め込んでしまう等の様子が見られる。
対応
食事に集中できる環境を整えたり、声かけなどで食事に意識を向けたりする。またペースが速い場合も声かけをしたり、スプーンを小さくしたり、皿に小分けにするなどの工夫を行う。
長く口腔内にため込む場合は、目の前に次の一口をスタンバイさせると、食事がスムーズに進むこともある。また食器具を変えたり環境を変えたりすることが効果的なこともある。
2.準備期(咀嚼期)
準備期では、食物を口に取り込み(捕食)、唾液とよく混和しながら咀嚼をしたり、舌と口蓋で食物を押しつぶしたりする。
その際に、頬粘膜や舌などでうまく調節しながら歯列の上に食塊を乗せて噛んでいく。機能的な問題だけでなく、歯がない、義歯がないなどという事も大きく影響する。
準備期に問題が生じると
食物を咀嚼したり押しつぶしたりできず、食事に時間がかかったり、食物をそのまま丸呑みしたりする。その次のステップである口腔期が不良であると、咀嚼されていない食物がそのまま咽頭や喉頭に落下したり、十分咀嚼できていない食物で窒息事故を起こしたりすることもある。
また咀嚼運動が見られても、残存歯数が少なく義歯などが装着されていなければ準備期に問題が生じる。
対応
適応できるのであれば義歯を装着したり、口腔機能を適切に評価して適切な食事形態に調整することが必要。よって実際に普段食べている食品の摂取状況を観察することが重要である。
3.口腔期
口腔期では、咀嚼により口腔内にばらけた食物を舌でまとめて食塊形成したり、咽頭に送り込む動きがみられる。舌の動きが大きく影響。
口腔期に問題が生じると
口腔機能と摂取している食事形態が一致せず、食物を上手く咽頭に送り込めず食事に時間がかかったり、口腔内に食物が多量に残留したり、食物の舌によるコントロールができず咽頭に落下してしまい窒息につながることがある。
比較的嚥下障害の軽い方は飲み込みやすいと言われるゼリーや ソフト食なども危険なことがある。また一見口がもぐもぐと動いているように見えても、顎が上下に動く不随意運動(オーラルジスキネジア)の場合もある。
対応
口腔期が不良で、咽頭期が良好な方はいるので、その場合は咽頭期になるべくアプローチしやすい食形態にする、奥舌に介助する、介助具・自助具などを利用するのも良い。
また、食事時間が適切かを確認したり、食後の口腔内残留を確認し、残留があれば一度食形態を変更して残留具合を比較する。
食物にまとまりやすいあんをかけたり、食事介助されている方なら、座っている椅子をリクライニングしてみるのも良い。
訓練には舌の可動域訓練などを行うが、送り込みや構音を改善する目的でPAP(舌接触補助床)を製作するのも効果的。
4.咽頭期
咽頭期では物を飲み込む時の「ごっくん」という反射が起こる。意識的な反射惹起も可能だが、トリガーに食物が達すると自然に嚥下反射が起こる。 反射が起こる時は一時的に呼吸が停止し、鼻咽腔が閉鎖し食物が鼻に抜けないようになっており、咽頭収縮や舌骨・喉頭の挙上が起こり食道入口部が開大する。
咽頭期に問題が生じると
食物や水分の咽頭流入と嚥下反射惹起のタイミングがずれて誤嚥する、咽頭収縮力が弱くなり咽頭に残留しやすくなる、残留物を誤嚥する、食道入口部が開大せず食物が飲み込めない、といったことが起こる。
対応
嚥下のタイミングがずれて誤嚥する場合には、水分に増粘剤を混ぜて適切に調整する、一口量を少なくする、反復嚥下をする、左右向き追加嚥下をする、嚥下後に発声する。 湿性嗄性(食物や水分などが残留して生じるガラガラ声)のある場合は、咳払いをする、食形態を変更するなど様々な方法がある。
5.食道期
食道期では、食物を食道の蠕動運動によって胃へと送る。自分でコントロールすることはできない。
食道期に問題が生じると
食道逆流や停滞が生じたり、逆流物の誤嚥、通過障害などが見られる。
咽頭期に問題がなくても、痰がらみが消失しない、食後のげっぷやむせが見られることが多くある。
対応
胸のつかえ感や胸やけ、逆流感がある人は、消化器内科など専門医への受診が必要。
また食事の1回量を減らして回数を増やす、追加嚥下や食後の座位を保持することも有効。
(GC 高齢者の患者さんへの対応と口腔機能の基礎知識より引用)
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