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適正な下顎の位置とは、何ですか?:コラム/ますち歯科診療室 MASUCHI DENTAL CLINIC

リラックスしている時、下顎はどうあるべきか?

まず大前提に、人が平常時では上下の歯は接触してはいけない!と云う事です。

下顎は、耳前の顎関節部をジョイントに頭蓋骨・上顎骨に筋肉や靭帯でハンモックの様にぶら下がっています。そして神経支配の中で咀嚼・嚥下・発語・表情等の運動を担います。

では、運動をしていない時には、下顎はどうなっているか?
運動をしていないので、下顎を支える筋肉は弛緩して伸びやかそうですが、緊張状態の習慣化が、咀嚼筋の収縮により下顎を上に引き寄せ、上下の歯の接触に繋がるのです。それをTCH(上下歯牙接触癖)と呼びます。仕事や趣味での集中時の緊張による過度なTCH習慣や、それ以外の時間でも緊張状態が継続すると、生体に大きな問題となってきます。

TCHでは、歯に加わる荷重による持続的刺激が、知覚過敏や歯が浮くことによるかみ合わせ痛、中には歯根破折や歯を取り巻く周囲の骨の増生(外骨症)、そして首や肩のコリや痛みを伴うことも生じます。

下顎安静位とは?

前述の下顎の運動行為がない時、つまり口腔周囲の咀嚼嚥下を行う筋肉がリラックスしている時に、上下の歯が2〜3mm開いている安静空隙)下顎の位置を「下顎安静位」と呼びます。

下顎の位置 「咬頭嵌合位」とは?

「咬頭嵌合位」とは、上下の歯がかみ合った状態での下顎の位置です。下顎安静位から完全に口を閉じた先が、咬頭嵌合位といえます。

しかしここで問題が生じる場合があります。「何か、かみ合わせがずれている感じがする」と訴えるケースです。リラックス状態からおおよそ垂直2〜3mm先の状態なのにずれてるって?と云う事ですが、これには考えられる要因があります。

咬頭嵌合位が、しっくりいかなくなる要因は?

1. 歯が倒れたり伸びたりの位置以上がある場合

これは歯が大きく欠けたり喪失した状態が長く続くことで、対合する歯の挺出(伸びる)、隣接する歯が動くこと(傾斜)によるかみ合わせバランスの変化が起きます。

またTCH睡眠時のかみしめ癖等で歯の摩耗や傾斜、そして圧下(歯が骨に埋まりこむ状態)によってもバランスが崩れることがあります。

これらによって安静位から咬頭嵌合位までの口を閉じる経路で歯の位置・形態以上による干渉によって邪魔される場合と、咬頭嵌合位自体が以前と変化してずれてしまった場合が考えられます。

2. 下顎がずれる場合

日常習慣での頬杖や睡眠時のうつぶせ寝、えくぼ癖や口唇の緊張癖または口唇閉鎖不全によるぽかん口、そして継続したかみしめ癖や片側に偏った咀嚼癖、または@の歯の位置以上によるかみ合わせのアンバランスが常態化する事によっても下顎の偏位(ずれ)は起こり得ます。

上述のアンバランス化が、咬頭嵌合した状態で「しっくりしていない位置」と感じることに繋がるのです。

「筋肉位」の概念とは?

下顎安静位は筋肉のリラックスした時ですが、その先の咬頭嵌合位においても筋肉の必要以上の緊張は望ましくありません。その口腔周囲の筋肉の調和がとれて咬頭嵌合する下顎の状態を「筋肉位」と呼びます。目指す理想は、下顎の位置で「咬頭嵌合位」「筋肉位」おおよそ一致している状態です。それは両者ピンポイントで合致すればより良いでしょうが、ほどほど体が許容する接触エリア内に収まれば、個人差はありますが臨床的な不快症状として現れないことも多いのです。それが生体の許容性とも言えます。

臨床では、がちがちのピンポイント100点満点を目指すのでは無く、7〜80点の合格点を目指すことで、生体が許容してくれれば問題は小さくなります。

「筋肉位」の再現方法は?

日常臨床では、患者さんに「では、楽に噛んで下さい!」と言っても、何かずれを感じている方には、返って緊張して上手くいきません。筋肉位と咬頭嵌合位のずれを掴むためにはいくつかの手法がありますが、まず簡単なのは、自分の唾液を嚥下した位置が、筋肉の調和と関連することを応用します。

つまり、(1)「まずご自身の唾を飲んで下さい。
そして(2)「その位置からそっと軽く上下の歯をかみ合わせて下さい!
加えて(3)「そこからちょっと力を入れてかみ合わせてみて下さい。

(2)から(3)へ移行する時にかみ合わせの位置がずれるならば、筋肉位と咬頭嵌合位のずれがある能性が高いと判断します。(判断が難しい場合もあります)

かみ合わせのずれに対しての治療方法は?

症状の程度や発症してからの時間的経過によっては、難易度は変化しますし、一筋縄ではいかない難症例もあります。前述の合格点を目指す治療では、下顎の筋肉位とのずれの有無や、目指すべき許容されるかみ合わせエリアへの見立てが必要となります。

顕著な歯の位置移動により明確なかみ合わせの干渉には、歯の形態修正(咬合調整・不可逆的介入)も時にはあり得ますが、通常は診査診断の下、可逆的な介入(原点に戻れる治療)から始めるのが流儀となります。日常の習癖チェックと注意を基本として、その先の治療での介入には、マウスピースの利用が多いです。顕著な歯の位置移動により明確なかみ合わせの干渉には、歯の形態修正(咬合調整・不可逆的介入)も時にはあり得ますが、通常は診査診断の下、可逆的な介入(原点に戻れる治療)から始めるのが流儀となります。日常の習癖チェックと注意を基本として、その先の治療での介入には、マウスピースの利用が多いです。

マウスピース装着によって今までの咬頭嵌合位の状態をフリーにして、咬合する時の干渉による筋肉の不自然な習慣や、かみしめ癖の習慣の軽減を目的とし、生体の元々あった状態への回帰を促すサポートを主眼に置きます。「良い形態には、良い機能が備わる」という論理です。

上下の接触する歯が無い場合は、どうする?

歯の喪失によるかみ合わせの安定ができない義歯製作のケースでのお話です。上下の接触する歯が無いので、咬頭嵌合位は存在しません。 その際に製作する義歯でのかみ合わせの高さ、その方の「咬合高径」を術者が設定しなくてはなりません。

しかしこの設定する高さも、その方が許容できるある程度の幅があります。そして性別、年齢や骨格などを勘案して患者さんとやり取りしながらも術者主導で決めていきます。そこには経験上の勘所が存在します。
医学的な根拠とともに経験則も加味されるという訳です。

咬合高径を決める一つの基準は?

臨床上の簡便な評価方法に顔貌測定によるWillis法があります。

これは、眼角と口角の長さが、鼻下点とオトガイ最下部の長さから安静空隙量(2〜3mm)引いた長さにおおよそ合致することを利用して、ノギスで計測して設定していきます。その場合でも年齢などの個人差も勘案することが通常です。高さが決定したのちに、前述の手法を応用して水平的な(前後左右)義歯による咬頭嵌合位の位置を決定します。これらの位置で義歯を製作していきます。

咬合高径が変化して低くなると?

前述した歯の喪失や摩耗、圧下、下顎の後退などによるかみ合わせの高さ「咬合高径」が低くなった場合には、

  1. 顔貌では下顔面が小さくなる老人様顔貌
  2. 顎関節への負荷が増す事による疼痛や不快症状
  3. 頬粘膜や舌をよく噛む
  4. 咬合力の低下(噛み切れない)
  5. 口角炎
  6. 口唇の菲薄化
  7. 耳鳴りや聴覚障害

を生じることがあります。

参考文献)2021.3 ザ・クインテッセンス 和田淳一郎/若林則幸先生 文献より

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