HOME>コラム>「口腔ケア」と「あいうべ体操」で、インフルエンザ対策とは?
「口腔ケア」と「あいうべ体操」で、インフルエンザ対策とは?:コラム/ますち歯科診療室 MASUCHI DENTAL CLINIC
インフルエンザ感染
インフルエンザの感染メカニズムは、インフルエンザウイルスが、上気道粘膜に吸着し、そこから感染が始まる。インフルエンザウイルスの表面には、粘膜表層の細胞にくっ付き入り込むためのHA突起(ヘマグルチニン 赤血球凝集素)と、感染させた細胞から離れるためのNA突起(ノイラミニタ―ゼ)があり、感染済みの細胞から離れた後、新たな未感染の細胞にくっ付き感染が広がって行く。(資料1)
1918年から世界的に大流行(パンデミック)したスペイン風邪(A型インフルエンザ)はH1N1型で、これはHA突起とNA突起がそれぞれ1型ということ。
感染しやすくなる要素とは?
HA突起が粘膜表層に吸着しやすくするためには、たんぱく質分解酵素が働き吸着の手助けをしている。そして吸着後、ウイルスの遺伝子を細胞内で増殖させ、再び別の細胞に乗り移るために、吸着した細胞との結合を切り離して飛び出すための働きをノイラミニターゼ酵素が担っている。(資料2)
その酵素はウイルス自身も持っているが、口腔内細菌もその酵素を持っており、細菌数が多ければ多いほど、ウイルスの活動を手助けするという流れとなる。つまり口腔内細菌が、インフルエンザウイルスの片棒を担ぐという事だ。
因みに、インフルエンザ治療薬として使用される「リレンザ」「タミフル」は、その酵素の働きを阻害するノイラミニターゼ阻害剤である。
感染に対する予防法は?
(1)口腔ケアの効果
口腔ケア(ブラッシング)により口腔内細菌は減少する。その結果細菌から放出されるノイラミニターゼ酵素量も減少し、上気道粘膜でのインフルエンザウイルスの感染のリレーを食い止める効果が期待できるというわけである。
現在介護施設での高齢者の方への口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防として一般化しているが、インフルエンザの予防にも一役買っている。また、小学校での児童が、昼の給食後の歯ブラシの実践によりインフルエンザの罹患率の低下につながったという事例をいくつか認めることができる。
資料3は、山田 宏参議院議員のHPより引用。氏が、東京都杉並区長であった2009年に、区内の一部の小学校内で歯磨き奨励用の洗面台を設置し、ブラッシングに取り組んだ際に、そうでない学校とのインフルエンザ罹患率に有意差が出た事を示している。HP内の山田氏のコメントでは、「歯の健康に気をつけることが、かからなくてもよい病気を予防したり、重篤化を防ぎ、結果かからなくて良い医療費の削減につながると確信」の言葉を掲載している。
(2)あいうべ体操の効果
あいうべ体操により、口腔内の舌の定位置(舌尖が上顎切歯乳頭部のスポットに触る)を習慣的に適正になることによって口唇閉鎖が容易になり、口呼吸から鼻呼吸習慣への転換となる。そこで、インフルエンザの予防効果は以下が挙げられる。
- 鼻呼吸での鼻毛や鼻粘膜上皮のフィルター無しに、口からインフルエンザウイルスをダイレクトに吸い込むリスクの軽減。
- 口呼吸による口腔乾燥の改善で、口腔内細菌の増殖を抑える。
- 乾燥により上気道粘膜表層では、唾液タンパク質のバリアーが低下するが、口腔内が湿潤となると上気道も同様となり感染予防の効果が増す。
資料4は、福岡県内の小学校で児童のあいうべ体操の励行によるインフルエンザ罹患率低下データの資料。これは、あいうべ体操の提唱者で、全国普及に尽力される福岡市みらいクリニックの今井一彰内科医の学校保健活動からの引用資料で、着実な成果を認めることができる。
参考文献
奥田 克爾 著 「史上最大の暗殺集団デンタルプラーク」医歯薬出版
- バックナンバー
- 歯の再植療法の説明
- あなたの唾液元気ですかぁー?
- 舌のくせ(舌癖)にご注意!
- ますち歯科のおススメ歯ブラシ
- 酸蝕症を知っていますか?
- 過剰な力によって何が起こる?
- デンタルフロスの使い方
- 咬合力検査について
- アクシデントで思わぬことに…
- マウスガードの作り方
- 子供も歯周病になりますか?
- ジルコニアとは?
- ジルコニアと金属アレルギー
- お口のケアがからだを守る
- がん治療周術期医科歯科連携とは
- 全身麻酔手術前の歯科受診のお勧め
- 口臭について知りたい!解明編
- 口臭について知りたい!犯人編
- 細菌数を調べる「細菌カウンタ」
- 歯科衛生士さんからのアドバイス!「妊婦さん編」
- 歯科衛生士さんからのアドバイス!「乳児期のお子様のお母さんへ編」
- 歯科衛生士さんからのアドバイス!「幼児期のお子様のお母さんへ編」
- 歯科衛生士さんからのアドバイス!「学童期のお子様のお母さまへ編」
- TCH・ブラキシズムをご存知ですか
- ペリオは全身疾患の誘発因子です
- 唾液ストレス検査
- ドライマウスお口の水分検査
- エルビウム・ヤグレーザーを使用する治療ってどんな効果?
- 「健口から健康へ」の年齢別の方針
- 口呼吸・態癖は成長に悪影響を及ぼします(児童期)
- 口腔乾燥(ドライマウス)を予防しましょう
- 診療室からのご案内
- よくかむ習慣が発育を促します(乳幼児期)
- 睡眠時無呼吸症候群
- 良質な呼吸・睡眠のために診療室が考える事
- 健康のための・お口の5ヶ条!
- 摂食嚥下の5期とは、なに?
- 口腔ケアマニュアル ~お家で介護される方向け~
- お口の体操(食べる呑む機能向上!)
- 子どもたちの健口づくりから健康な身体へ!
- 「口腔ケア」と「あいうべ体操」で、インフルエンザ対策とは?
- お子様のおくちぽかーんとしていませんか
- 顔と歯並びの良い子に育てるポイント
- 小児期での口腔機能・発育チェックを!
- いびきは病気のはじまり
- 5分で測定できる唾液検査SMT
- 歯科医療と全身疾患そして医療費との関係
- 舌の筋力”舌圧”って大事!
- お口の瞬発力チェック「パタカ検査」とは?
- グルコセンサー検査とは?
- りっぷるくん検査って?
- 適正な下顎の位置とは、何ですか?
- 歯内療法でのHFC治療
- 睡眠中の歯ぎしり状態のチェック、「筋電計検査」とは?